BSE問題における「政治的配慮」とはについて

bewaadさんの[http://bewaad.com/20051111.html#p01:title=記事]について。

最初にbewaadさんのところでも紹介されている中西準子先生の米国輸入牛肉のリスク:プリオン専門調査会は解散した方がいいをご覧ください。さらにこちらを見ると2004年時点でのアメリカ牛と和牛のBSEのリスクが比較できます。これから全頭検査の最大のメリットがリスクを減らせることではなく、リスクの大きさがわかることだとわかります。この議論は現在でもスキームは変わっていませんので、資料があれば最新の比較も可能だと思います。また、中西先生がリスクが小さいことをはっきり証明できるとしているようにBSE問題はリスク論的には決着の付いた問題と考えて良いのです。むしろ、肥満とか発ガン性とかのようなBSE以外についての牛肉のリスクの方が高いかもしれません。もちろん、科学的にはBSEについてはまだ分かっていないことはたくさんありますが、だからといって闇雲にBSEの範囲を広げるのはよろしくないでしょう。
政策としては輸入は再開すべきなのですが、問題はbewaadさんご指摘の「政治的配慮」すなわち政治レベルの問題です。既にこれは安全問題を口実にした経済政策であると中西先生は六年も前に看破されています。よって、bewaadさんには安全問題を口実にした経済政策というか貿易政策について経済学的観点から語っていただくのが最も妥当であったと考えます。貿易問題として、bewaadさんだけでなく、他の経済系blogerさんも語ってみませんか?

bewaadさんの記事について

前置きが長くなりました。
中西先生のようなリスク評価がなされたとして、それが社会的に受け入れられたかと考えれば、かえって混乱を招くだけだったように思えるからですというくだりはリフレ、インタゲ導入論に対する議論を放棄した評価(正しいことは認めるが、実際には出来ない)と同じようなものではないかと。もちろん、輸入再開で利益を得るのは一部の人間であるのに対して、リフレによる利益は国民全体に広くもたらされるという違いはありますが、それはそれでリフレによるリスクについても国全体に影響するわけです。*1

輸入再開を拒み続ける理屈ですが、相互輸入再開を条件にするのはどうでしょうか?現在、輸入再開しない理由として最大のものはアメリカが日本産牛肉を日本のBSE発生以来ずっと輸入禁止にしていたことだと思います。(アメリカの貿易問題は日本ではあまり報道されていないので輸入再開を見過ごしているかもしれませんが)さらにアメリカのかたくななBSE発生国からの牛肉禁輸を考えると、(日本からの牛肉輸入を認めると他国からの圧力にも耐えきれなくなるため)これで拒み続ける可能性はそれなりに高いです。また、中西先生のような立場や圧力を気にせず研究できる研究者はアメリカでもそう多くはない*2ので、相互輸入再開のために両国が相互にリスク評価を行い対策をすりあわせることが立場の違いによる評価や対策のぶれを抑えられる最も簡単な方法だと私は考えます。ただ、これはやはり政治レベルの話ですが。(専門家が貿易について語るのはおかしいと思います)
食品安全委員会がやるべきことはリスクを抑える努力をする一方で、(産地偽装などによる)風評被害に対する対策だったのではないかというのが私の考えです。*3
そもそも、プリオン専門調査会に輸入再開の可否を諮問したのが問題な気がします。えさがどうのこうのという話題に終始するのは目に見えていたはずです。むしろ、それが目的(時間稼ぎ、議論の混乱)だったのではという陰謀論を唱えたくもなりますが。とにかく、科学的な議論(かどうかも議論の余地はあるにしても政策レベルには達してない議論)を延々と続けた上で最後に全く意味のない「政治的配慮」を調査会がすることは自己否定以外の何者でもないです。「政治的配慮」をせざるを得ないと判断したなら辞表を出すべきかと。結局、政策的にはほとんどなにも言っていない答申を受けて政治家(食品安全委員会内閣府だから担当大臣は食品安全担当の内閣府特命担当大臣かな?)がほとんど純政治的な判断をすることになるわけで自称環境リスク論者の隅っこの方としてはとてもかなしいです。あるいは最終的な判断は国民に選ばれた政治家が責任を持ってするので、民意が反映されていると言うべきなのかもしれませんが。

後記

私の意見が多分に含まれてますので、それを抽出、加筆して後日のエントリーでBSE問題およびそれを口実にした経済政策について考えてみたいと思います。
今のところ安全問題を口実にした貿易政策については、自由貿易についてのコンセンサスが成立している国の間で、双方のリスクが同等であることがわかり、リスクを他国に輸出したり表示を偽装するような行為をしていないことが確認されれば、原則的にリスクの大きさによらず(リスクが大きいことだけが輸入を禁止する条件になるならば即刻タバコの輸入を禁止するべきです)互いに貿易を認めるべきだと思います。ただし、リスクの存在が一般に明らかでなく*4かつ大きいときは例外として輸入を禁止するべきだと考えます。
というか、何でこの件について触れているのに本質が安全問題を口実にした貿易政策であることが見抜けてない記事に溢れているのは何故ですか?
長すぎて自分でも分かりにくいというのが本音ですが、これ以上時間もかけられないので。
うまく落ちなくなってしまった。前置きの最終段落を最後に持ってくるべきでしょうか?

*1:私はリフレ論者ですが、日銀の駄目っぷりをみるともはやあそこにはリフレ政策の実行能力がないのではという疑念に駆られることがあります

*2:中西先生ですら某化学企業に裁判を起こされていれば研究室は潰れていただろうとおっしゃっていた覚えがあります

*3:あくまで食品安全委員会(政治に近くても政策)レベルの話ですが

*4:タバコのようにリスクがあることが分かっていて一部の人間が摂取するものでなく、リスクを意識せずに摂取することがあるもののこと